デンタルオフィスみなと 公式ブログ

静岡県沼津市の歯科医院「デンタルオフィスみなと」です。

【社会・医療】ストレスと人間社会

 ハムスターは回し車で1日にかなりの距離を走る。その回し車を人間が手を加えて、時々逆回転にしたり、動きを悪くしたりする実験では、ハムスターが走る距離は、1/4になるという結果になった。

 哺乳類であるマウスとヒトとは、遺伝子の上では99%は同じ遺伝子であり、かなり近い存在である。それ故、ヒトは「しっぽがないマウス」と呼ばれる。ヒト以外の他の動物がどの程度の感情を持つか、正確には知ることができないが、他の動物が本能で行動している場合の判断の基準は主として、「快」or「不快」であると考えられる。

 ハムスターが回し車を1日にハーフマラソンほど走らせるのは、食べ物を探し求めての行動とされている。したがって、餌が少ない時には多い時よりも、多く回し車を回すことが知られている。しかし、餌がたくさんある時にも、ハムスターは回し車をせっせと回し続ける。人間にしてみたら、無意味な行動に見えるかもしれないが、ハムスターにとって、本能のままに走り、回し続けることが「快」なのであろう。ゆえにハムスターにとって、回し車がない環境は「不快」であり、ストレスがある環境なのである。

 現代社会は多種多様のストレスに囲まれたストレス社会といわれているが、ストレスがない状態で人が生きられるだろうか。これについて、興味深い実験がある。人間が電気ショックを受けるボタンが置かれた何もない部屋で過ごす実験では、誰もが何もないことに耐えられず、電気ショックのボタンを何度も押したとのことである。

 しかし、刺激を求め続けると依存症を発症することがある。薬物依存症になった人が薬物を探し求める行動は、薬物探索行動と呼ばれている。薬物依存症の人にとっては、薬物が体内にある間が「快」であり、ストレスがない状態であると考えられる。

 過度のストレスは人間の身体に悪影響を与える。強いストレスは、自律神経系を乱し、免疫抑制状態を生じる。副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることで感染症にかかりやすくなったりする。

 ストレスに立ち向かうことは必要だが、適度な回避(ストレス・コーピング)もまた必要である。ライフイベントとストレス度については、Holmesらによるストレス尺度がよく知られている(Holmes & Rahe, 1967)。研究の結果、1年間に経験したイベントの合計点が300点を越えた人の79%が、翌年に何らかの疾患を訴えていた。

 ストレスを克服し、心身ともに健康な生活を送るためには、ワークライフバランスが大切であり、勤め人が自分らしさを回復するためには11時間が必要とされている。余暇を有効に過ごすことで、「自分らしさ」のある意義ある人生になることは、言うまでもない。

 ヒトを除く動物は、生殖を終えると命が尽きるものが多いが、ヒトはそうではない。人間の寿命は、社会や文化を構築するために与えられたものだと私は思う。

 ヒトの特徴は、直立二足歩行を始めたことに大きく由来する。樹上生活から草原で生活することができるようになり、行動範囲を大きく広げた。アフリカで誕生したとされる現代のヒトは、温暖な地域から寒冷な地域へヒトは生活範囲を広げることで、今では地球のあらゆる場所でヒトが生息しているようになった。これによって遠くにいる仲間を見つける必要が生じたものと考えられる。その結果、視力が他の動物よりも発達し、100m先にいるものもが、動物かヒトか、敵か味方か、老若男女か、瞬時に見分けることができるような能力を備えるようになったと考えられている。

 視力が発達し、文字や言語を作り、文明・文化を発達させてきた人間であるが、近年、デジタル化の情報革命が急速に進んでいる。発展途上国においての研究では、ネットの普及とともに、少子化が加速するというネット社会の負の側面が明らかになってきた。これは、ヒトの情報のおよそ80%が視覚に依存していることが大きいと思われる。音楽がレコードからCDに変わり、さらにはネット配信へと移行したように、文字が手書きから印刷物になり、ネット上の文字情報へと形を変えたように、今後はあらゆるものが動画に集約されていくように私は思う。

 ネットにはあらゆる情報があふれており、簡単に情報を得ることができる。ネットを検索すれば、誰もが分かったような気になるが、世の中、そう簡単なものばかりだけではなく、実際に見たり、触れたり、体験したり、経験しないと得られないことが多々ある。外科手術や歯科治療の技術などは、その最たるものであろう。

 人類の歴史は、不可能なことを可能にしてきた歴史であると言っても良いだろう。しかし、その影には技術の犠牲になった多くの命があることを忘れてはいけない。恐ろしいことに、現代技術の多くは、第一次~第二次大戦中にその萌芽があったものである。毒ガスは抗がん剤を生み、ダイナマイトは爆弾となり、他にも戦車、潜水艦、飛行機、ロケット、コンピューターなど、例を挙げればきりがない。囚人の管理に必要な台帳からコンピューターのパンチカードが生まれ、また、砲撃の弾道計算用に必要とされた機械はコンピューターの原型となった。人類の歴史は、大量殺戮の歴史であるとも言える。

 病によって、人は臓器を失い、自らを失うことがある。それは多くの人にとっては、恐怖であり、最終的には人は死の恐怖に対処しなければならない。医療では、大切なものを失う現場に立ち会う場面に遭遇する。それに寄り添うのがケアであり、回復させようとするのが治療である。医療スタッフは、患者さんが安心できる手助けをしなければならない。安心して医療を受けることができる上で必要なことは信頼関係を築くことであり、そこには医療技術とコミュニケーションの両輪が必要である。そのために、「共感の医療」「顔の見える医療」を念頭に置いて、日々診療する必要があると私は考える。

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