デンタルオフィスみなと 公式ブログ

静岡県沼津市の歯科医院「デンタルオフィスみなと」です。

【エッセイ】人間至る処青山在り

【エッセイ】人間至る処青山有り

 

人はなぜ生まれ、なぜ生き、なぜ死ぬのだろう。これは10才で小児がんによって他界した私の親友・白井浩人君が私に残した課題です。白井君とは4月末の遠足で会ったのを最後に、彼は沼津市立病院に入院し、地方の病院では治らないとのことで東京の病院に転院しました。彼は入院中に「露木君に会いたい」と言っていたそうです。私は一週間後にお見舞いに行くつもりでしたが、入院してから1か月と10日ほどで、彼と再び会うという願いが叶わなくなってしまったことを知らされました。彼の最期の言葉が「おばあちゃん、痛いよ」だったと聞かされた時、彼のあまりの悲痛な叫びに私は声を出して泣きました。 

せめて痛みを和らげることはできなかったのでしょうか。彼の死は「病院に入って治療を受けることは非常に恐ろしいことである」という記憶となって、私の脳裏に深く刻まれました。

それから15年がたち、私にあらためて自分の人生を問い直す機会が訪れ、彼の言葉が思い起こされました。私は「痛みを取ることこそが私の使命である」と自覚し、歯科医師を目指しました。

私は口腔がんを治療すべく大学病院で学びましたが、歯科医師1年目にして、そこで思いがけずターミナルケアの現場に向き合うことになりました。1か月に1人ほどの割合で亡くなっていく口腔がんの患者さんを前にして、私にできることは患者さんの話を聞いてあげることだけでした。

回復の見込みがないターミナルの患者さんがいる病室を回診するのは勇気が必要です。手術や急患などで多忙なオーベン(上級指導医)の関心は、自然と急性期の患者さんに向くのは仕方がないことであり、ターミナル患者さんの病室を回診するのは当時の私のような若いDrが主でした。

私がおそるおそる病室のドアを開け入っていくと、ベッドに横たわっている患者さんが身を起こして、私を出迎えてくれました。私は「この患者さんに一体何ができるのだろうか」と、考えながら、ただ患者さんのそばにいて話を聞くのが精いっぱいでした。

当時の私よりもはるかに年上で人生の先輩であった患者さんたちは、自分が若かった時の話や、家族との思い出、仕事で海外に行った時の話など、苦しい治療の中であっても、その時だけはおだやかな顔をして人生を語ってくださいました。

そこで私は患者さんに寄り添うことの大切さを教えてもらいました。それ以来、私にできることは何だろうかと、自らに問い続けています。他人のために生きることこそが、人間が生きている理由であると私は考えます。そのためには、社会に必要とされ、それに応えることができるよう、人は努力する必要があると考えます。

 

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